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東京地方裁判所 平成5年(特わ)3010号 判決 1994年6月10日

本籍

静岡県小笠郡菊川町加茂二四七九番地

住居

東京都新宿区下落合四丁目三番一六-二〇一号

会社役員

山本博之

昭和三五年一〇月一三日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官長島裕、弁護人矢田次男各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金五〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都新宿区下落合四丁目三番一六-二〇一号(平成元年一〇月三一日以前は、同区上落合一丁目三番九-二〇九号)に居住し、同区歌舞伎町二丁目二〇番一七号においていわゆるポーカーゲーム店等を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売上を除外するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  昭和六三年分の実際総所得金額が九一七七万三〇四六円(別紙1所得金額総括表及び修正貸借対照表参照)であったにもかかわらず、平成元年三月一三日、東京都新宿区北新宿一丁目一九番三号所轄新宿税務署において、同税務署長に対し、昭和六三年分の総所得金額が二一〇万円で、これに対する所得税額が八万五九〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額四五四〇万三〇〇〇円と右申告税額との差額四五三一万七一〇〇円(別紙3ほ脱税額計算書参照)を免れ

第二  平成元年分の実際総所得金額が三億二六二一万四八三七円(別紙2所得金額総括表及び修正貸借対照表参照)であったにもかかわらず、平成二年三月一三日、前記新宿税務署において、同税務署長に対し、平成元年分の総所得金額が六一〇万六〇〇〇円で、これに対する所得税額が五五万二四〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億五八四一万三五〇〇円と右申告税額との差額一億五七八六万一一〇〇円(別紙3ほ脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書(六通)

一  石坂孝司、山本欣弘及び山本薫の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の現金調査書、普通預金調査書、定期預金調査書、定額郵便貯金調査書、養老保険調査書、保証金調査書、店舗造作調査書、車両調査書、営業権調査書、権利金調査書、器具備品調査書、事業主借勘定調査書、事業主貸勘定調査書、申告所得調査書及び譲渡所得調査書

一  検察事務官作成の捜査報告書(四通)

判示第一の事実について

一  押収してある所得税確定申告書等一袋(平成六年押第四八七号の1)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の定期郵便貯金調査書、貸付金調査書、有価証券調査書、預け金調査書、会員権調査書及び雑所得調査書

一  押収してある所得税確定申告書等一袋(同号の2)

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも所得税法二三八条一項(ただし、罰金刑の寡額の関係で、刑法六条、一〇条により平成三年法律第三一号による改正前の罰金等臨時措置法二条一項)に該当するところ、右各罪につき所定刑中いずれも懲役刑と罰金刑を併科し、かつ、情状により所得税法二三八条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金五〇〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、ポーカーゲーム店を経営していた被告人が、二年分で合計二億〇三〇〇万円余の所得税を脱税したという事案であるが、その脱税額は高額で、ほ脱率も通算で約九九・七パーセントと極めて高率である。被告人は、同店の経営者でありながら、高額の給料を支払って従業員を営業名義人とし、日毎の売上等を記載した集計表を破棄させるなどしていた上、無申告のままでは税務調査を受けるおそれがあると考え、職業を雑貨販売業と偽って虚偽の本件所得税確定申告をしていたものであって、犯行態様は悪質である。また、被告人は、数年間ポーカーゲーム店の店長をして得た収入を元手に同店の経営を始めたが、一年余で摘発を受け、昭和六一年九月常習賭博罪で執行猶予付の懲役刑に処せられたにもかかわらず、右猶予期間中に再びポーカーゲーム店の経営を始め、その所得の大部分を秘匿して本件犯行に及び、国税局の調査段階では罪証隠滅工作もしており、犯情は悪質である。加えて、本件起訴にかかる平成元年分の本税等を納付していないことを併せ考えると、被告人の刑事責任は重いといわなければならない。

他方、被告人は本件調査が終了した平成四年六月に修正申告をし、本件起訴にかかる昭和六三年分の本税四五〇〇万円余を納付したほか、起訴対象外の昭和六二年分の所得税本税や地方税についても毎月合計一〇〇万円を分割納付していること、検察官の捜査及び公判を通じて事実関係を認め、本件犯行を反省していること、平成元年一二月にポーカーゲーム店の経営から手を引き、その約一年後からは会社を設立して居酒屋を経営していること、被告人には妻と幼い子供が二人いることなどの酌むべき事情も認められる。

そこで、これらの諸事情を総合考慮し、主文のとおり量刑した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 懲役一年六月及び罰金六〇〇〇万円)

(裁判官 中里智美)

別紙1 所得金額総括表

<省略>

修正貸借対照表

<省略>

別紙2 所得金額総括表

<省略>

修正貸借対照表

<省略>

別紙3 ほ脱税額計算書

<省略>

ほ脱税額計算書

<省略>

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